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2020.07.01

【ちはやふる小倉山杯記念鼎談】楠木早紀・松川英夫・末次由紀4〜基金に期待することと競技かるたの未来〜

2020/07/01(火)

去る2月23日、第一回ちはやふる小倉山杯開催を記念し開催された、楠木早紀永世クイーン、全日本かるた協会・松川英夫会長、そして漫画家/ちはやふる基金発起人・末次由紀の3名による鼎談の模様をお届けしています。今回は末次よりちはやふる基金立ち上げの経緯と、楠木クイーン、松川会長がそれぞれ基金に期待されることについて伺いました。




ー今回、末次さんが発起人となってちはやふる基金を立ち上げられました。この経緯や真意を改めて教えてください。 


 末次:連載を長く続けてきて、今はストーリーラインのクライマックス部分を描いています。クライマックスを描いたら物語は終わってしまうのですが、私はそれで、沢山お世話になっている競技かるたの世界にお別れをして良いのだろうかと。そこから凄く寂しくなって。このままお別れができないという気持ちになってしまったんです。現場の方からも色々と、ここがこうなったら良いのに、というお話も聞いたり、『ちはやふる』で、競技かるたをスタートしてくれるこどもが増えて、逆に困っていることもあると聞いて、責任を感じました。そんな中で、競技かるたの世界を描いて、そのままさよならをするという選択肢がちょっと選べないなと思いまして。色々考えた末に、皆さんの頑張りを支援する仕組みが作れたら作品としての寿命もきっと伸びるし、必要とされれば私は続きを描くかもしれないし、作品を愛してくれる人がいるなら、この力を最大限生かして貢献しようというような気持ちになっています。現場の皆さんを困らせるようなことは不本意なので、どうですかと提案をさせていただきつつ、できることがあるならと。今も手探りですけども、本当に必要な物はなんなのかとか、子供達には何があると助かるのかと、探りながらやっていけたらなと思っております。 


 ーちはやふる基金では、ちはやふる小倉山杯に協賛として優勝賞金100万円を拠出させていただくことになりました。これについて、松川会長はどのように思われますか? 


 松川:私なんかはもうかるたを60年近くやってますけども、賞金については、ある意味で今までにない新しい時代のスタートだなと感じています。先輩たちからも「かるたはいくらやっても一銭になるものでもない、だけど本当に奥が深いものだし、楽しむことによってお前は十分それで元が取れるから」とよく言われてたんですよ。私ももちろんそういう気持ちでずっとやってきました。その中で今回、正式にこのような基金というものが立ち上がって、初めてではないんですけども大きな額の賞金が出ることになった。実は今の時代、かるたの世界に限らず、元々は遊び心でやっているスポーツの世界、勝負の世界に対して、一体こういうことがどこまで許されるのか問われていると感じます。私自身の生涯のテーマでもありますが、遊びということに対して、非常に真面目に取り組まなければならないと思っているのです。今日もまさに8名の選手が競っているわけですけども、もともとは彼らも私と同じような気持ちで一銭にもならない、それでもいいと思ってスタートしたんでしょう。けれども、条件が変わることで、全く別のエネルギーに変わるということはあり得るのでしょうし、そのような時代に突入したのかなと思います。    

 かるたの世界だけではなくて、全ての競技で心の葛藤はいっぱいあると思うんですね。そういう世界でも、誰もが別に賞金が欲しくてやっているわけじゃない、根底には、一番になりたいんだという気持ちがあると思うんですよ。その中で賞金という話が出たときに、それまでとは違うエネルギーが開発されるのかなと。私は今回それを非常に感じています。それが良いことか悪いことか、その結果は選手たちが今後5年、10年戦っていく中で出てくるものでしょう。その場はその場で嬉しいなという気持ちはあると思いますけど、深いところにある本当の答えはすぐには分からないものだと私は思っています。基金が立ち上がり、試合に対して賞金が出ることについて、選手たちの遊び心にどういう形で刺激を与えてくれるのか、これからの答えが楽しみです。



第一回ちはやふる小倉山杯の模様 


 ー楠木さんは、かるたの大会に賞金が出るということについてはどう思われますか? 


 楠木:やはり私たちはアマチュアで、いざ競技かるたをしっかり始めようと思ったらお金がかかります。もちろん普段着でも試合に出れますけど、私なんかでいうと、大分県の出身なので、全日協の後援がついてる大会に出ようと思っても遠征費だけでたくさんかかるんですよね。その点で言うと、サッカーを始めましょう、野球を始めましょうと地域のクラブチームに入るよりはハードルが高くなっているというのは、競技かるたの地方民の正直なところです。詩暢ちゃんもプロがあったらといっていましたが、プロがあって、こういった賞金大会があったりだとか、まあ賞金というよりも、こうやって名人クイーンとは違ったタイトルがあって。千早ちゃんや詩暢ちゃん、太一くんや新くんみたいになりたいと思う目標の先に賞金という物がついているというのは、一つの魅力にもなると思います。    

 また今回はトップの8人の選手が大会に出ていますけども、彼ら、彼女らもいろんな地方の大会等に出てポイントを稼ぐんですね。私の地元、大分にも大会があるんですけども、メジャーな選手が遠征して来てくれるとやっぱり盛り上がります。賞金100万円は、そんな選手達の遠征資金になるかもしれませんし、そういった点で、様々な可能性を秘めている賞金大会ではないかなと思っています。彼らだけにとっての賞金ではなく、かるたを普及させていく上でも、トップ8人でしたらそういう使い道によって、かるた界全体に還元してくださるのではないかと思います。 


 ー賞金のほかに、松川会長からちはやふる基金に対して望まれることはありますか? 


 松川:私自身は全日本かるた教会という大きな団体を背負っている以上、必ずしも自分の個人的な要求ではなくてですね、組織としての発展とか、かるた協会の社会的な認知度向上なども考慮する必要があります。そういった目的のために、基金をどんな形で生かせるのか、実は我々にとって大きな課題なのかなと思うことがあります。もちろん小学生から始まって中学生、高校生、大学生、社会人。それからお年寄り。いろんな層がかるたをやっているわけです。どの年代の人に、どの形でそのようなものが有効に生かされるか。そしてそれは、将来の5年、10年、100年後のかるた界にどうやってプラスになっていくのか。そういった見方を、私はどうしてもしてしまいますので、そういう観点から見ると、やはりかるた界がぐんとレベルアップするような有効な道があると良いなと。そして今回がそのきっかけとなったことは事実だと思っております。 


 ー末次さんご自身は、基金を通じてどんなことを実現したいと思われていますか?


末次:最近は海外の方もアニメなどを通じて『ちはやふる』に触れ、競技かるたを始めてくださったりして、すごいなと思ったんですけど、スポーツとしてだけでなく、意味として、作品としての百人一首を鑑賞する、競技かるたはやらないけど百人一首に興味を持って、もっと知りたいと思ってくださる方のお手伝いができるのではと思っています。また選手の皆さんも、競技かるたは一生懸命やられているのですが、歌の意味はいまいち知らない、ピンとこないという方が少なくないと思うので、皆さんが意味の世界でも深く繋がって、札一枚一枚が分かるようになったら、人に説明するときも意味から入るというか、意味の深さにも自分は惹かれるんだという紹介がきっとできると思うので。そのアプローチの助けになるようなことが、基金としてもできると良いなと思っています。 


 ー最後に楠木さん、松川会長、それぞれがこれからのかるた界に望むこと、ご自身のこれからについてを教えてください。 


 楠木:今は教員として日々子供達と触れ合っているんですけど、やはり百人一首って末次さんもおっしゃっていたように、取る魅力と、和歌そのものの魅力というのも、日々教壇に立ちながら感じています。もちろんスポーツ要素のあるこの競技かるたの魅力とともに、百人一首の、なぜここまで過去と繋がってきているのかというのはやはり魅力の一つ、日本の伝統文化の一つでありますので。私にできることは、やはり一人でも多くの子供達に、百人一首というものを知ってもらったりですとか、遊びを知ってもらえるように取り組んでいくとともに、競技かるたをしている選手たちには技術面の指導ですとか、日本の伝統の良さを、マナー面でも広めていけたらなという風に思っています。 


 松川:私はですね、ついこないだ名人戦があって、その前日に講演会がありまして。毎年やっているんですけども、今年の講演会にはアイルランド出身のピーター・マクミランさんという方に来ていただきました。百人一首の英訳などをされていらっしゃる学者の方なんです。彼がいきなり「ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こいのみちかな」をどんと出してこられまして。私、一番最前列に座っていまして、「あ、一番好きな句をどうしてしってるんですか」と思って、一瞬目が合ってですね。100首もある中で、1首目にどんとそのマクミランさんがだしたことに私が驚いたと同時に、すごい心の交流を感じたんですよね。    

 30年日本にいらっしゃるそうですが、なんでもこの歌はピーター・マクミランさんが百人一首の道に入る一つのきっかけになったんだそうです。船頭さんが舵を無くしちゃったような状況の中で、もうこの先どうなるかわかりませんみたいな、”ゆらのとを”の良さをずーっとお話しされた時に、深い人間同士の触れ合いを感じました。    

 ああいう外国の方というのは今、かなりの人数の方が百人一首でかるたを取られているわけですけども、そういう人たちにも、まさに歌心を大変よく理解していらっしゃるなと。我々の競技かるたに対する思いと同じものがあると感じました。それで、マクミランさんの遊び心、一つの結論をどんと出すんではなくて、思いを自分の中でゆらゆらと感じるようなこと、例えば男性と女性が出会って、一つの思いに到達するためにはいろんなことがあるんだけれども、それですらも行方はわからない、みたいなそういう感覚が、日本のこの百人一首の世界だけではなくて、昔の万葉集から始まった歌の世界に実はあるのかなと。マクミランさんの話を聞いてるうちに、なんて素晴らしいんだろうこの人はと。私はもう、その人の倍とは言わないけれど、かなり長く生きているんですけども。私みたいに最初からスピードに命をかけるみたいなそんな単純なことではなくて、もっと人生観ですかね、そういうものがすでに外国の方に理解されている。こういう思いもですね、実は日本のこれからを担う小学生、中学生、高校生、大学生に解ってもらえたら、もっとすばらしい日本国民の底力になるのかなと。それを我々百人一首の世界が、手助けをできたら尚良いなと。これが今回私が思ったことです。 



 ※続きは来週水曜日に公開予定です。お楽しみに!