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2020.09.28

幸せを育む大地と学びの神様の螺旋


文:末次由紀(漫画家)



幸せには壁が必要らしい


私が「幸せ」を定義するならば、「壁にぶつかることさえも喜びと思い、超えていくことでより自由を感じられる何か」と出会うことだと思っている。


それは人によって違う。スポーツだったり、育児だったり、ゲームや研究だったり将棋だったりグルメだったり飲み会だったりするのだろう。


たくさんの種類の経験に出会い、私たちはみんな多くの種を植えてきたはずだ。

芽の出た種と、出なかった種。


でもそれは遠い未来にならないとわからない。できるだけ多くの大地に種をまき続けなければならない。




「たくさんの楽しいイベントが奪われた小学6年生に、楽しい体験授業を用意してあげたい」


そんな相談を7月に受けた。


その小学校の取り組みはとても面白いものだった。

子供たちに体験させてあげたい項目として上げられたのが

剣術・居合、着付け、紅染め、三味線、日本舞踊、競技かるた。


その競技かるたの講師になってくれという依頼。


ちはやふる基金でも初心者拡充を目標に、初心者への競技かるた講習会などできたらいいなと考えていたけれど、それは自ら競技かるたをやりたいとすでに思っている(ルールはちゃんと知っている)子たちに向けて考えていたもの。 


しかし、その小学校では特に学校としての取り組みとして百人一首を覚えるということはしてないらしい。

つまり全然百人一首を知らない・覚えていない子供たちに向けての、競技かるたの体験授業。


漫画家なのに・・・・!


でも・・・・

運動会も林間学校も文化祭も音楽祭もコロナのせいで行えない。

大事な経験が著しく省かれてしまった小学生に、違う形で経験をあげたい・・・そんな先生たちの思いが伝わってくる。


やります、と言っている自分がいた。


本気か。できるのか。40人に。どうやって・・・・。


ハッと気がついた。私の手元には三月から少しずつ書き溜めていた「40枚かるた」という初心者向けの競技かるたhow to漫画が、途中まで書き進められていた。どこに出す予定もまだなかったからノロノロと。


・・・これを使ったらいいんじゃないか。





ノロノロ進めていたhow to漫画に発表の場という燃料投下


8月。

連載の合間を縫って、途中までだったhow to漫画を書き進めた。

暁星高校の田口先生にも監修をしてもらって、お言葉を引用させてもらった西郷直樹永世名人にも見てもらい、いろんな人に目を通してもらった。

「これじゃ、競技かるたやってる子は多少わかっても、全く知らない子にはかるたのルールもわからないよ」などの身内の意見ももらい、内容のブラッシュアップをして・・・(今でもまだ適宜更新中)


ハッと気づいた。競技かるたの取材は死ぬほどしてきたが、札をちゃんと読む練習なんかしたこともない。競技かるたに初めて触れる子たちに、幻滅されるかもしれない。

ちゃんとした読手の読みを聞かせてあげたい・・・。

常日頃からお世話になっている読手でありかるた選手であり声優さんである木本景子さんに「助けてーーー」とSOSを出した。

少しでも自信が持てるように味方が欲しいという弱い心を見透かしてか、木本さんは快諾してくださった。

女神・・・・!




特別授業本番に気がつく。勘違いの恐ろしさを。


9月。体験授業をする小学校の教壇に立つ。


40人の生徒さんがマスク姿でこっちを見ている。私はかっこいいかな、と思って入手したマウスシールド。


自分の息で白く曇るマウスシールド。


緊張して息が上がっているのはモロバレになるマウスシールド。


ドキドキしながら、予習をし、確認を繰り返した内容を話す。タイムテーブルも決めていた。5分で学習部分を終えると。


百人一首の歴史。

伝わっただろうか。小倉山荘の襖に貼られた名歌が源流だということが。

今で言ったらLINEスタンプみたいなもので、趣味を披露する文化の現れだったということが。

競技かるたの歴史。

伝わっただろうか。高価な名家の子女の遊戯・貝合わせから、木版画が発達した江戸時代に庶民の遊戯になったことが。




そしてここからが本番だ。


4人1組になった子供たちのもとにかるたの札が配られる。


そう、私はちっともわかっていなかった。


100枚の取り札から40枚かるたで使う40枚(むすめふさほせ、うつしもゆ、ちき、はよ、た、あさぢ、あさぼ・あ、あさぼ・う)を選び出すのに、1チーム4人がかりで20分かかるなんて。


本当に私の認識不足だった。かるたの札はわかりにくい。

「わかころもてはつゆにぬれつつ」(1番/天智天皇)

「わかころもてにゆきはふりつつ」(15番/光孝天皇)

もうほぼ同じに見えるよね〜〜〜〜〜〜〜。

参考:大石天狗堂の取り札


大石天狗堂の札だと「いつこもおなしあきのゆふくれ」なのに、

違う出版元だと「いつくもおなしあきのゆふくれ」になってたりするんだもんね〜〜〜〜。


大混乱!!


でも・・・・


間違い探しのようなそっくりなパズル。

その中から一枚だけの正解のピースを探し出すような作業に取り組む子供たちは、目がキラキラしてる。


「これ楽しい!」と言ってくれる。




え?まだかるたを始めてもいないのに!?


日本語の古い仮名遣いで書かれたかるた。

微妙な違いで全然違う意味になり、全然違う歌になっているんだ、と子供たちはその難しさを肌で感じていたし、その難しさを「楽しい」と言う子がいた。


そうだ。かるたは難しい。

難しいことを面白いと思える子に出会うためにかるたはあるんだ。


40枚の札をやっと選び出し、

「ここのシールに冊子に書いてある決まり字を書いてください。そして札に貼ります」と伝えたら、

「決まり字ってなんですか」

「え?!?冊子にほら、むすめふさほせ って書いてある、これを書くの」

「あ、そういうことか」


決まり字を書いたシールを貼って、やっと2対2のチーム戦。

読手・木本景子さんの美声が響くと、サポートについてくださった保護者の方から「美しい・・・歌だけずっと聴いていたい・・・」という声。わかる。




「はるのよのー」と読まれても、何していいかわからない子供たち


木本さんの美声が響いても、子供たちが動かない。

ハッとして「はるの って書かれた札を取るんだよー」と言ったら、

「あ、そういうことか」


私はまた学びを新たにする。

自分が知ってるからって、これまで有段者の取材ばっかりしてたからって、「初めてかるたに出会う子供たち」の一歩一歩を知らなくていいわけがない。


40枚かるたを抽出する作業に時間を使ってしまって、1コマ目の子たちは5枚しかかるたを取ることができなかった。


なんという体たらく・・・・・。


少しでもみんなの体験が良くなるように、30分の休憩時間にボランティア保護者さん&木本景子さんと協力して40枚の抽出を先にしておくことにする。


(こちらは読手の木本景子さん。女神)



2コマ目はその準備の甲斐があって、1試合しっかりすることができた。


そんな中でも起こる思ってもみなかったこと。



■初めてかるたをやる子たちは、思った以上にもめる。(解決方法はジャンケン)


■2対2でのチーム戦のはずが、4人で個人戦だと思ってる子もいて、独自の負けられない個人戦が始まっている。


■自陣の札はもう全部無いのに、読みが続いているから相手の陣の札を取り続けているチームがある。(ほぼ全チーム)


■取った当たり札をどうしていいかわからず、相手陣に送り札している。



全部私の説明不足〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!


それでも「面白かった!」と言ってくれる子たち。

泣けてくる。私は本当に認識がたりてなかったし、準備もできてなかった。

かるたに触れるのが初めての子たちの想像ができてなかった。


校長室で何十年ぶりかの学校給食をご馳走になりながら反省会。




12年もかるた漫画を描いてきたのに、できないことの多さに震える。

みんなの経験の種類を増やしたい。種をまくべき大地となりたい。

そんな大きなことを思っていたのに。



でも自分の中の小さな学びの神様が言う


「これをこうしたらこうなった、その事例を忘れてしまわず言葉で残して、ピンで貼っておくといいよ」


私の学びの神様は「勉強になった」とか「なるほど」とか「学びが深い」とかの上っ面の言葉のそばに必ず現れて、その言葉が滑っていかないように私にピンを差し出してくる。


「書いてピンで貼っておくといいよ。」


この文章はその私のメモだ。未来の私への注意書き。

もしくは誰か、これからかるたを子供たちに教えてくれる人へのメモ。ごめんね、もうとっくにわかってて「バカだなあ」と思ってるかもしれないけど。


でもでも。

子供たちにかるたを教える、それが私はとても楽しかった。

だから私のこの「初めて」は、初めてじゃ終わらないかもしれないよ。



「明日から学校にかるたを持ってきてやる!」と言ってる子がいると、小学校の先生が教えてくれた。

うわっと思って、体温が一度上がる。



私の幸せは、「壁にぶつかることさえも喜びと思い、超えていくことでより自由を感じられる何か」


その「何か」が一つ増えるかもしれない9月の話。





※末次由紀先生の描いた「競技かるた初心者用how to漫画」は近日中に公開予定です。